映画『キック・アス』はどんな構造のストーリーなのか、ブレイク・スナイダー・ビート・シートをつかって分析してみました。
この記事はブレイク・スナイダーの『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』を参考にしています。
『SAVE THE CATの法則』はシナリオが書けない人を救う最強の脚本術!もくじ
ブレイク・スナイダー・ビート・シートとは
ビートシートは映画脚本の指南書『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』に登場する物語のテンプレートです。
具体的には以下のようなもの。()内の数字は何分頃にそのパートがあるのかをしめした数字です。
1.オープニング・イメージ(1)
2.テーマの提示(5)
3.セットアップ(1~10)
4.きっかけ(12)
5.悩みのとき(12~25)
6.第一ターニング・ポイント(25)
7.サブプロット(30)
8.お楽しみ(30~55)
9.ミッド・ポイント(55)
10.迫り来る悪い奴ら(55~75)
11.すべてを失って(75)
12.心の暗闇(75~85)
13.第二ターニング・ポイント
14.フィナーレ(85~110)
15.ファイナル・イメージ(110)『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』
ブレイク・スナイダー・ビート・シートは、このような15の項目で構成されています。
そして、ハリウッド映画のほとんどが、このテンプレートにあてはまるといわれています。
なので実際に、このテンプレートをつかって映画『キック・アス』のストーリーがどのような構造をしているのか分析してみます。
キックアスのストーリーの分析
ビートシートの15項目がキックアスのあらすじのどの部分にあたるのか解説しながら、キックアスのストーリーを分析していきます。
キックアスとは、「スーパーヒーローにあこがれる何の特別な力も持たないオタク青年が、本物のヒーローへと成長していく物語」です。
※ここから先はキックアスのネタバレが含まれているので、まだ見ていない方は注意してください。
1.オープニング・イメージ
【オープニング・イメージ】とは、物語のイメージや雰囲気を伝える冒頭のシーンです。15のファイナルイメージと対になっていて物語のはじまりと終わりでどんな変化が起きたのかが示されます。
スーパーヒーローにあこがれるデイヴのモノローグから映画が始まります。そして、スーパーヒーローのコスプレをした男が、ビルの屋上から飛び立とうとして落下します。
これがキックアスの冒頭のシーンです。
ここで映画『キックアス』はコメディ要素のあるスーパーヒーローものだということが伝わり、観客は作品の雰囲気をつかむことができます。
2.テーマの提示
【テーマの提示】とは、作品のテーマをそれとなく観客に伝えるシーンです。多くの場合、登場人物の誰かがテーマに関係することを口にしたり、疑問に思ったりします。
カフェで友人と談笑しているときデイヴは「みんなスーパーヒーローにあこがれるのに、なぜ誰もスーパーヒーローになろうとしないんだろう?」と疑問を口にします。
これは「特別な力がなければ、責任はともなわないのか?」というキックアスのテーマに関係する言葉です。物語の後半でこのテーマに対する答えが示されます。
3.セットアップ
【セットアップ】とは、登場人物や物語の舞台などの設定を説明するパートです。主人の置かれている状況が観客に伝えられます。
運動も得意じゃないし、面白い奴でもないし、彼女もいない。などのデイヴの現状がモノローグと映像で語られ、デイヴがあこがれのスーパーヒーローから遠い存在の人間であることがしめされます。
デイヴと敵対することになるクリス・ダミーコや、協力することになるヒットガールことミンディなど主要な人物の置かれている状況もここで語られます。
4.きっかけ
【きっかけ】とは、物語が動き出すきっかけになるできごとです。主人公の感情を揺さぶるようなできごとが起こります。
デイヴはカフェからの帰り道、不良たちにカツアゲされます。そのとき、カツアゲされるデイヴの存在にひとりの男が気づきます。しかし、彼はデイヴから目をそらし、助けてくれませんでした。
これが【きっかけ】になるできごとです。
「あの男は見ているだけのクズだ。でも、自分が同じ立場だったら助けに行くことができるだろうか?」とデイヴの感情が揺さぶられます。
5.悩みのとき
【悩みのとき】とは、きっかけが引き起こした状況の変化に対して主人公が悩むパートです。
カツアゲ事件をきっかけに、自分は困っている人がいても助けることができない非力な人間だとデイヴは気づきます。
そして、「スーパーヒーローはコミックの中にしかいないけど、悪は現実の世界にも存在する。自分はどうすればいいんだ」と悩みます。
6.第一ターニング・ポイント
【第一ターニング・ポイント】とは、主人公が自らの意志で行動して物語が本格的に動きはじめるポイントです。
デイヴはスーパーヒーローのコスチュームを制作し、そのコスチュームを身にまといヒーロー活動を開始します。
そこで、あのときカツアゲしてきた不良たちが自動車を盗もうとしている現場に遭遇します。デイヴは勇気をふりしぼり、不良たちに挑みます。
これが【第一ターニング・ポイント】です。
デイヴは自分が「見ているだけのクズ」ではないことを証明し、等身大のヒーロー「キックアス」として本格的に活動しはじめます。
さらに、不良たちと戦ったときに大ケガをした影響で末端神経が麻痺して【痛みに強い】という特殊能力を手に入れます。
7.サブプロット
【サブプロット】とは、メインから少し離れたサブストーリーです。キャラクターの恋愛について語られる場合が多いです。
同じ学校に通う美女のケイティに声をかけられ、デイヴとケイティの恋愛がスタートします。
このサブストーリーの恋愛が、ヒットガールやダミーコたちと関わるきっかけになっています。このようにサブストーリーはメインのストーリーを進めるためのサポートをします。
8.お楽しみ
【お楽しみ】とは、作品の売りになる部分や、観客があらすじや予告などから期待するものを見せるパートです。
「特殊能力を持たないキックアスが、ヒーローとしてどのように活躍するのか」がお楽しみの部分です。
迷子のネコを探している最中にリンチの現場に遭遇し、デイヴは暴漢たちに立ち向かって被害者を助けます。その動画がネットに上げられ、本物のスーパーヒーロー並の人気者になります。
9.ミッド・ポイント
【ミッドポイント】とは、お楽しみのパートがおわり、物語の危険度がアップするポイントです。
デイブはケイティに悩みを相談され、彼女にしつこくつきまとうヤクの売人のアパートに向かいます。そこで、デイヴは売人たちに殺されそうになりますが、危機一髪のところでヒットガールに助けられます。
本物のヒーローの登場によって自信を失い、気持ちがゆらぐデイブ。しかし、この売人退治の一件はキックアスがやったと誤解され、ダミーコが率いる犯罪組織に目をつけられてしまいます。
ここで物語の危険度がぐっと上がります。そして、調子のよかったキックアスの勢いが衰えていきます。
10.迫り来る悪い奴ら
【迫り来る悪い奴ら】とは、すべて上手くいっていたように見えた主人公に困難が襲いかかるパートです。いままで乗り越えてきた困難がパワーアップして襲いかかってきます。
カツアゲなどの日常の悪ではなく、ダミーコ・ファミリーという本物の悪と対立することになったキックアスことデイヴ。彼はダミーコたちに命を狙われます。
ヒーロー活動をやめて恋愛にかまけているデイヴのもとに、新しく現れたヒーロー「レッドミスト」(クリス・ダミーコ)が忍び寄ります。
11.すべてを失って
【すべてを失って】とは、主人公が絶不調になるパートです。
デイヴはレッドミストの罠にかかり、ヒットガールの父(ビッグダディ)とともにダミーコたちに捕らえられてしまいます。
デイヴは助けにきたヒットガールになんとか命を救われますが、ビッグダディは命を落としてしまいます。
自分のせいでビッグダディが死んでしまい、デーヴは失意のどん底へ・・・。
12.心の暗闇
【心の暗闇】とは、夜明け(解決作をみつける)まえの暗いシーンです。
デイヴは父親を亡くしたヒットガールを気づかい、慰めの言葉をかけます。
しかし、「あんたがいなければ、パパは死ななかった」と返されてしまいます。
13.第二ターニング・ポイント
【第二ターニング・ポイント】とは、徹底的に打ちのめされた主人公が最悪の状況から抜け出す解決作を見つけ、ふたたび立ち上がるポイントです。
デイヴはダミーコたちにひとりで立ち向かおうとするヒットガールを止めます。
そのとき、ヒットガールに返された「パパの望みは何だと思う? はじめたことを最後までやり遂げること!」という言葉をヒントにデイヴはふたたび立ち上がります。
デイヴは「特別な能力がなければ、責任はともなわないのか?」という疑問に「責任はともなう」という答えを出し、自分がはじめたヒーロー活動を最後までやり遂げようと決意します。
ここで、「特別な力がなければ、責任は伴わないのか?」というキックアスのテーマに対しての答えがしめされました。
14.フィナーレ
【フィナーレ】とは、物語の中で教訓を学んで成長した主人公が勝利するパートです。
デイヴはヒットガールとともにダミーコのアジトに乗り込み、ダミーコを倒します。
「特別な力がなくても責任は伴う」と悟って成長したデイヴの姿が、派手なアクションとともに描かれます。
15.ファイナル・イメージ
【ファイナル・イメージ】とは、オープニング・イメージと対になるシーンです。物語のはじまりと比べて主人公などがどのように変わったのかを見せます。
ヒットガールを抱えて空を飛ぶキックアスが屋上に降り立ちます。このシーンはオープニング(スーパーヒーローのコスプレをした変人がビルの屋上から飛んで地面に落下する)と対になっています。
あと、オープニングではスーパーヒーローは普通の人間とはちがう、特別な能力の持ち主だとナレーションで語られていました。これもファイナルイメージと対照的です。
ファイナルイメージで屋上に立っているスーパーヒーローは、何の特別な能力も持たない普通の人間、デイヴだからです。
熱い正義の心を持っていても行動に移せなかった青年が、本物のヒーローへと成長しました。これが物語のはじまりと比べた主人公の変化です。
まとめ
以上がブレイク・スナイダー・ビート・シートをつかった映画『キック・アス』のストーリーの分析です。
どのパートがどの部分にあてはまるのか分析するだけでも構成力が身につくと思うので、物語の作り方を勉強したい人は自分の好きな作品でやってみることをおすすめします。