今回は、ストーリーを考えるのに役立つ【ログラインの作り方】を紹介します。
「ストーリーのアイデアが思いつかない」、「プロットを完成させる前に挫折してしまう」、「物語を作りたいけど何から手をつけていいのかわからない」
そんなときは、まず1行の物語【ログライン】を完成させてみましょう。
もくじ
ログラインとは
ログラインとは、わかりやすくいうとストーリーの内容を1行にまとめたものです。
たった1行で、どんな主人公がどんなことをする話なのか、物語の主旨が簡潔にしめされます。
ハリウッド映画の脚本などでは、このログラインを軸にしてストーリーが組み立てられています。
ログラインの具体的な例
ログラインの具体例
- 『バック・トゥ・ザ・フューチャー』
タイムマシンで過去に行き、帰ってこられなくなった青年がトラブルを解決してもとの時代にもどろうとする話。 - 『桃太郎』
桃から生まれた男の子が、犬と猿とキジを仲間にして鬼退治に向かう話。 - 『ワンピース』
海賊王を夢見る少年が、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)をもとめて世界の海を冒険する話。
このように、ほとんどの物語は【どんな主人公】が【どんなこと】をする話なのかシンプルに説明できます。
逆にシンプルにいいあらわせないストーリーは受け手側に伝わりにくく、興味をしめしてもらえません。
ログラインから作りはじめる理由
ログラインから作りはじめる理由は、目的地をしめすコンパスのような役割をしてくれるからです。
プロットを書いている途中で行き詰まったときもログラインを見直せば、おのずと進むべき方向がわかってきます。
ログラインの便利なところ
- 物語のイメージを広げていくための出発点になる
- 物語の方向性をつかめるので、一貫したストーリーが作りやすくなる
- 物語として成立するかどうか、おおよその検討がつく
それでは、1行の物語【ログライン】をいっしょに作っていきましょう。
ログラインの型にあてはめてみる
下の質問にこたえてみてください。
あなたが作ろうとしているのはどんな物語ですか?
【どんな人】が【どんなこと】をする話、という形でこたえてください。
こたえられましたか? それが、あなたの物語のログラインです。
こたえられなかった人は、むずかしく考えすぎているかもしれません。下に書いた2つぐらいシンプルでも大丈夫です。
- ヒーローが悪と戦う話
- 男と女が恋をする話
とりあえず「どんな人がどんなことをする話」というログラインの形にできたなら次に進みましょう。
物語を面白くする3つのテクニック
たとえば下のようなログラインができたとします。
ログライン:【ヒーロー】が【悪と戦う】話
【どんな主人公】が【どんなことをする】という形にはなっていますが、さすがにこれだとシンプルすぎてストーリーのイメージがわいてきませんよね。
そんなときは、ログラインを面白くする3つのテクニックをつかいます。
3つのテクニック
- 遠いものを組み合わせる
- 大げさにしてみる(過剰と欠如)
- ずらす
タイトルだけ見てもよくわからないと思うので、実際にこの3つのテクニックをつかってシンプルなログラインを改良していきます。
テクニック1:遠いものを組み合わせる
【どんな主人公】と【どんなことをする】の組み合わせを遠くするテクニックです。
「ヒーローが悪と戦う話」だと、【どんな主人公】と【どんなことをする】の組み合わせが近すぎるので、距離を広げてやりましょう。
組み合わせが近いとは【やりそうな人物】が【やりそうなこと】をしているという意味です。
下の例を見てください。
近いものを組み合わせた例
- ウソつきがダマし合いのゲームに参加する話。
- FBIがテロリストたちと戦う話。
- 名探偵が事件を解決する話。
この3つのログラインは近いものを組み合わせているので【やりそうな人物】が【やりそうなこと】をしていますよね。
なので【どんな主人公】と【どんなことをする】の距離を遠ざけて意外な人物に意外なことをさせてみましょう。
遠いものを組み合わせた例
- ウソをつけないバカ正直な人間が、ダマし合いのゲームに参加する話。『ライアーゲーム』
- ショッピングモールで働く中年の警備員が、テロリストたちと戦う話。『モール★コップ』
- 頭脳明晰な囚人が事件を解決する話。『羊たちの沈黙』『ホワイトカラー』
このように【どんな主人公】と【どんなことをする】の距離を遠くしてやるとギャップが生まれます。
そのうえ、離れた2つのあいだを補完しようとするのでイメージが広がり、アイデアが浮かびやすくなるのです。
これらが遠いものを組み合わせる理由です。
上の例では【どんなことをする】を固定しましたが、【どんな主人公】のほうを固定して【どんなことをする】を遠ざけてもかまいません。
どんな主人公の部分を固定
- ウソつきがウソをつけなくなってしまう話。『ライアーライアー』
- FBIがミスコンに参加する話。『デンジャラス・ビューティー』
- 名探偵が罪を犯して捕まる話。(ネタバレなのでタイトルを伏せます)
それでは【ヒーロー】が【悪と戦う】話の組み合わせを遠くしてみましょう。(みなさんは自分のログラインで試してみることをおすすめします)
といってもパッと思いつかないですよね。そんなときは考えることを質問形式の文章にしてやるとわかりやすいです。
- 悪と戦うと意外な人物は誰?
(〇〇をすると意外な人物は誰?) - ヒーローがやると意外なことは何?
(〇〇がやると意外なことは何?)
それでも思いつかないときは【どんな主人公】や【どんなことをする】からイメージされるものをいくつか書き出してみましょう。
ヒーローからイメージされるもの
- 勇気がある
- 強い
- 特別な能力がある
- 正義
- 選ばれた特別な存在
- 人気がある
つぎに書き出したものを反対のものに変換します。
- 勇気がある>>>ヘタレ
- 強い>>>弱い
- 特別な能力がある>>>なんの能力もない
- 正義>>>悪
- 選ばれた特別な存在>>>ありふれた存在
- 人気がある>>>嫌われ者
変換した要素を【】の部分にいくつか入れてみましょう。(変換するまえのイメージをひとつぐらい入れてみるのもアリです)
【勇気はあるが弱くてなんの特殊能力も持たないありふれた存在】が悪と戦う話。
こうすれば意外な主人公の人物像を導き出せます。
弱いのにどうやって悪と戦うのか? 気持ちだけは本物のヒーローに負けないほど強いのか、それとも悪と戦わざるおえない状況におちいってしまったのか?
このように疑問が浮かんでイメージが広がりやすくなります。キャラクターや設定などがイメージできてきたら、ログラインをもうすこし具体的にしてみましょう。
勇気はあるが特別な力は何もないオタク青年が、悪と戦う等身大のヒーローになる話。
どうでしょうか? ログラインから、そこそこ面白そうな雰囲気がただよってきませんか?
ちなみに、これは映画『キック・アス』をマネしたログラインなのですが、遠いものを組み合わせるテクニックをつかって「ヒーローが悪と戦う話」という非常にシンプルなログラインから導き出せました。
人物の組み合わせを遠ざける
こんどはシンプルなログライン【男と女が恋をする話】を改良してみましょう。
このログラインにも遠いものを組み合わせるテクニックがつかえるのですが、使用方法が少し異なります。
【〇〇な男】と【〇〇な女】が恋をする話。
上のように【誰】と【誰】がという形に置き換えて、男女(恋愛する二人)の距離を遠ざけてやります。
身分に差をつけたり、容姿に差をつけたり、種族がちがったり、時代がちがったり、性格が正反対だったり・・・。
あとは同じやり方なので、恋する二人の組み合わせが遠いログラインの例だけ紹介させてもらいます。
組み合わせが遠い例
- 両手がハサミの人造人間が、人間の女性に恋をする話。『シザーハンズ』
- 現実では憎しみ合う二人がネット上で恋をする話。『ユー・ガット・メール』
- 重力の向きが逆の男女が恋をする話。『アップサイドダウン』『サカサマのパテマ』
- 16世紀からタイムスリップしてきた伯爵と現代人の女性が恋をする話。『時のかなたの恋人』
- 人間関係に悩む男性が人工知能に恋をする話。『her世界でひとつの彼女』
テクニック2:大げさにする(過剰と欠如)
こんどは【大げさにする(過剰と欠如)】を紹介します。
主人公の特徴や設定の一部を過剰にしたり、一部を欠如させたりするテクニックです。
それでは、シンプルなログライン「ヒーローが悪と戦う話」をつかって説明していきます。
主人公の特徴や設定を過剰にしてみる
【主人公】の特徴を書き出して過剰にしてみましょう。
ヒーローからイメージされるものは、強い、勇気がある、正義、などがありましたね。
まず、ヒーローの特徴【強い】を過剰にしてみます。(みなさんは自分のログラインで試してみてください)
【強くなりすぎてしまったヒーロー】が悪と戦う話。
どんな相手も一撃で倒せるほどに強くなり過ぎてしまったヒーローが悪と戦う話、『ワンパンマン』がこのタイプのログラインです。
あっけなく終わる戦いにやりがいを感じられず悩んでいる主人公の姿が想像できて物語のイメージが広がります。
同じように【正義】を過剰にすると「【正義感が強すぎるヒーロー】が悪と戦う話」になります。
過剰にした部分を際立たせるために、少し手をくわえてみましょう。
【正義感が強すぎるヒーロー】が特殊能力をつかって【クレーマー】と戦う話。
正義感が強すぎるのを際立たせるために、撃退方法も過剰にして敵対する悪の存在をしょぼくしてみました。コメディ系のライトノベルや漫画につかえそうなログラインになりましたね。
その他の【過剰】をつかったログラインの例を書いておきます。
数を過剰にした例
- とある理由で500人以上子どもがいる男が自分の子どもたちに会いに行く話。『人生、ブラボー!』
- 犯罪のスペシャリスト11人がカジノから巨額の現金を盗み出そうとする話。『オーシャンズ11』
- 1200の密室で1200の事件が起こる話。『コズミック』
主人公の特徴を過剰にした例
- 誘いや頼まれごとを断り続けてきた男が、どんなことにもイエスとこたえるようになる話。『イエスマン』
- アリほど小さなヒーローが悪を退治する話。『アントマン』
- 心やさしい高校生が恐すぎる顔のせいで不良扱いされ、数々の伝説をつくってしまう話。『エンジェル伝説』
- どんな些細なことでもやられたらやり返す少女が、自分を切りつけた通り魔に復讐しようとする話。『ラメルノエリキサ』
世界設定を過剰にした例
- 独身でいることが罪だとされる世界で、独り身の男が無理やりパートナーを見つけさせられる話。『ロブスター』
- バカしか存在しなくなった未来で、コールドスリープから目覚めた平均的な頭脳の持ち主が天才扱いされてしまう話。『26世紀青年』
主人公の特徴や設定を欠如させてみる
もうひとつのテクニック【欠如】を説明していきます。
まず【主人公】の特徴を書き出して何かを欠如させてみましょう。なるべく必要そうなものを欠如させてやると面白くなります。
ヒーローからイメージされる要素は特別な能力、人気者、強い、などがありましたね。ためしに【特別な能力】と【強い】を欠如させてみましょう。(みなさんは自分のログラインで試してみてください)
【特別な能力を持たない等身大のヒーロー】が悪と戦う話。
『キックアス』や『スーパー!』、『ディフェンドー闇の仕事人』などの特別な能力を持たない、なりきりヒーローもの映画がこのパターンのログラインです。
同じようにして【人気】を欠如させると、「嫌われ者のヒーローが悪と戦う話」になります。『ハンコック』などがこのパターンです。
なぜ、嫌われているのか? 悪と戦うときに街を破壊しすぎてしまうのか? などとイメージが広がります。
その他の【欠如】をつかったログラインの例も紹介しておきます。
主人公の何かを欠如させた例
- 人気を失った元ポップスターとスランプに陥った作家志望の女性がラブソングを作り上げる話。『ラブソングができるまで』
- 魔術の才能がない少女が魔法学校に入学してあこがれの魔女を目指す話。『リトルウィッチアカデミア』
世界設定の何かを欠如させた例
- 子どもが生まれなくなってしまった世界で、奇跡的に妊娠した女性を守ろうとする男の話。『トゥモロー・ワールド』
- 停電によって街から明かりが消えたクリスマスの夜に、登場人物たちがそれぞれのクリスマスを過ごす話。『大停電の夜に』
テクニック3:ずらす
さいごに紹介するのは【ずらす】テクニックです。
どういうテクニックなのか、シンプルなログライン「ヒーローが悪と戦う話」をつかって説明していきます。
まず、ヒーローに【特別な能力がある】という設定を固定します。そして、「もし、うれしくない特別な能力だったら?」というふうに能力の価値をずらしていきます。
うれしくない能力は以下のようなものがあります。
うれしくない能力の例
- すごい能力だけど使うと寿命がちぢんでしまう。(よくある設定)
- 頭の中で考えていることが周囲に伝わってしまう能力。『サトラレ』
- まんじゅうの中身がつぶあんか、こしあんかがわかる能力。(『サザエさん』のマスオさん)
- ホクロから勝手にレーザーが出てしまう。『プラスチック・サージェリー』
「特別な能力があるヒーローが悪と戦う話」の【特別な能力の価値】をうれしくない方向にずらしてログラインを考えてみます。
能力の価値をずらした例
- 特別な力をつかうたびに〇〇を失うヒーローが、悪と戦う話。
- 特殊能力を上手くコントロールできないヒーローが、街を破壊しないように慎重に悪と戦う話。
こんどは【悪と戦うヒーロー】という構造をそのままにして【勝つ手段】をずらしてみます。
実力ではなく運の力で勝つヒーロー『ラッキーマン』などがこのパターンです。
勝つ手段をずらした例
- 勝つためなら、どんなひきょうな手段でもつかうヒーローが悪と戦う話。
- 実家がお金持ちのヒーローがお金の力で悪を倒す話。
上と同じように【悪役に勝つヒーロー】という構造をそのままにして【視点】をずらすこともできます。
悪役側の視点で描かれた作品『メガマインド』や『マレフィセント』がこのパターンです。
視点をずらした例
- 悪と戦うヒーローを陰で支える人たちの話。
- 悪とヒーローの戦いのせいで壊れた街を修理する人たちの話。
このように【価値、手段、視点】に注目して、ずらしてやるのがおすすめです。
- 主人公が持っている、もしくは手に入れようとしているものの価値や、能力の価値をずらす。
- 主人公が目的を達成しようとするための手段をずらす。
- 物語の中で起こるできごとはそのままにして、視点となる人物をずらす。
「ヒーローが悪と戦う話」以外の【ずらす】テクニックをつかった例も紹介しておきます。
価値をずらした例
- 犯罪の隠れみのにするために経営していたクッキー店が予想外に大繁盛してしまった男の話。『おいしい生活』
- 誘拐した子どもがヤクザの息子だったので、ヤクザに追われるはめになってしまった誘拐犯の話。『誘拐ラプソディ』
手段をずらした例
- 離婚して親権を奪われた父が、子どもたちに会うために家政婦になりすまして元妻の家に侵入する話。『ミセス・ダウト』
- 受験に失敗した青年が、大学に通っているフリをするために自分で大学をつくってしまう話。『トラブル・カレッジ』
視点をずらした例
- スーパーに売られている食材たちが、自分を食べようとする消費者たちから逃げようとする話。『ソーセージパーティー』
- 家に住み着いている幽霊たちが生きている住民たちにおびえる話。(ネタバレになるのでタイトルを伏せます)
- 犯人側の視点で描かれた倒叙ミステリー全般。『青の炎』『ハサミ男』など。
以上で、1行の物語【ログライン】を面白くする3つのテクニックをすべて紹介しました。
こんどは、できあがったログラインをチェックしてみましょう。
ログラインの作り方:まとめ
あなたが作り上げた1行の物語が、想像力をかき立てる魅力的なログラインかどうかを以下のリストでチェックしてみましょう。
- どんな主人公がどんなことをする話なのか、わかりやすく書かれている
自分以外の人が見ても簡単に理解できそうならOK - イメージの広がりがある
ログラインを見て主人公の人物像やストーリーの展開、世界観などが浮かんでくればOK - 興味をひかれる要素がある
ギャップやヒネりなどの興味がひかれる要素があればOK - 自分にとって刺激的
ログラインを見て「この物語を作りたい、完成させたい」と思えたらOK
ダメだった場合は紹介した3つのテクニックをつかって、もういちど挑戦してみてください。
すべてクリアできたなら物語の核になるログラインの完成です。
つぎはこのログラインをもとにプロット(物語の設計図)を作っていきます。ログラインがあれば三幕構成(物語の型)にあてはめていくだけでプロットは完成します。