『エンタテインメントの作り方』の感想と内容紹介|貴志祐介の創作術

エンタテインメントの作り方の表紙

ホラー、SF、ミステリーとあらゆるジャンルでベストセラーや映像化作品を連発するヒットメーカー貴志祐介。今回は、そんな貴志先生が手の内を明かして書いた『エンタテインメントの作り方』を紹介します。

創作術にくわえてヒット作誕生の裏話も多数収録されているので、作家志望の方はもちろんのこと貴志祐介作品のファンも楽しめるエンターテイメント性の高い1冊です。

『エンタテイメントの作り方』の内容紹介

『エンタテインメントの作り方』を読むとどんなことが学べるのか、参考になりそうなポイントを取り上げながら内容を紹介していきます。

それと、貴志祐介作品ファンのためにどのような創作秘話が聞けるのかも紹介します。

第一章 アイデア

第一章ではアイデアを手に入れるための心構えや、アイデアの磨き方などが語られています。

アイデアは待っていても降ってこないので、少しでも「へえ」と感心したことはメモを取っておくことが大事である。さらにメモを集めてノートにし、新しい作品に取りかかるまえはそのノートを読み返す。というのが貴志先生のアイデア術です。

他には「もし〇〇がXXだったら」という発想で想像力を膨らませる方法などが紹介されています。

あと、貴志先生のファンにはたまらない話もたくさん語られています。

『硝子のハンマー』などの防犯探偵シリーズの榎本のモデルになった人物との出会いや、初めて小説を書いたときの話。デビュー作『十三番目の人格 ISOLA』を書いたときの話。『黒い家』のアイデアはどのようにして生まれたのか。どういう読書体験をしてきたのか。などなど。

第二章 プロット

第二章では貴志先生流のプロットの作り方が語られます。

アイデアを磨き上げてイメージが膨らんできたら、そのアイデアにはどういう条件が必要なのか、どういう状況がふさわしいのかなどを考える。そうやってひとつのアイデアをおおまかなあらすじやプロットに発展させていく【漸化式】という方法が紹介されています。

貴志祐介流のプロットでは冒頭、クライマックス、結末の三点を決めます。そうしておけば、ストーリーの展開が予定していたものと変わっても話の軸がぶれないからです。

他にはストーリーに推進力を持たせるためのテクニック「謎や対立軸を提示する」や、物語にベストな舞台の選び方「実在する場所がいいか、架空の場所がいいか」、タイトルの付け方、などが紹介されています。

この章でも貴志作品のファンにはたまらない情報を知ることができます。

『新世界より』の舞台が1000年後の日本だった理由、『黒い家』のタイトルの誕生秘話、5ページにわたる『天使の囀り』のプロット、『クリムゾンの迷宮』の設定を大きく変更した話、などの貴志作品の裏話が聞けます。

第三章 キャラクター

第三章ではキャラクター作りに関することが学べます。登場人物の名前を付けるときに注意することや、キャラクターを魅力的に見せるコツが語られています。

簡単に紹介すると、キャラクターに名前を付ける際は読者の混乱する名前「文子(ふみこ、あやこ)」のようにどちらにも読める名前は避ける、キャラクターは声をイメージできるまで仕上げる、など。

あと、三章でも貴志作品の裏話が聞けます。

『悪の教典』の蓮実聖司は引き算で生まれたキャラクターである、『新世界より』のスクィーラのモデルになったのはディケンズの『デイヴィッド・コパフィールド』のヒープである、など。

第四章 文章作法

第四章ではベストセラー作家の文章作法が学べます。

1行目をどう書きはじめるべきか、読みやすい文章とはどういう文章なのか、改行のタイミング、リーダビリティの正体、筆を止めさせないコツ、などについて。

『悪の教典』は一気読みをねらって書いた作品である、などの裏話も語られています。

第五章 推敲

第五章では書き上げた小説を推敲する方法が学べます。

小説を油絵にたとえて推敲時のチェックポイントや、むだな文章の削り方、ご都合主義にならないための注意点などを解説してくれます。

第六章 技巧

第六章では小説のさまざまな技巧(テクニック)が学べます。

読者の感情移入を促すテクニック、効果的な場面転換の仕方、作中作の活用方法、リアリティを演出する方法などが紹介されています。

『エンタテインメントの作り方』の感想

書いた小説のほとんどがヒットする驚異の打率を持つ貴志先生が、どのような姿勢で作品作りに取り組んでいるのかを知ることができました。

紹介されている創作術は一般的な物語作りのハウツー本とそれほど差はないかもしれません。ただ、作者本人が自身の作品を例にあげて小説の書き方を解説するという点が、その他のハウツー本とちがう大きな特徴です。

どのような意図で書かれたのか、どういう経緯でその作品がうまれたのか、ヒット作誕生の裏話を交えて創作術を披露してくれます。

なので、『エンタテインメントの作り方』は単なるハウツー本ではなく幅広い読者を楽しませてくれるエンターテイメント性の高い作品に仕上がっています。

裏話の中で特に楽しめたのは『天使の囀り』のプロットです。120枚あるプロットの一部(5ページ程度)を見せてくれるのですが、貴志先生はかなり緻密なプロットを作るタイプの作家だということがうかがえました。

あと、第三章で紹介されている「悪役は何をやっても許される」という理論は盲点でした。たしかに、主人公たちのご都合主義は読者に叩かれますが、悪役はご都合主義でも許される風潮があります。

『黒い家』の菰田幸子や、他の作者の作品だと『羊たちの沈黙』のレクター博士、『ミザリー』のアニーなどはご都合主義な一面がありますが気になりません。都合のいいところに居合わせたり、ただのおじさんやおばさんが超人的な身体能力を発揮するような場面があるのに自然と受け入れられます。

他にも参考になる点はまだまだあり、『エンタテインメントの作り方』は色々な「気づき」を与えてくれる1冊でした。

どんな人におすすめなのか

貴志祐介作品のファンや、ベストセラー作家の手の内を知りたいという人にとっては必読の1冊です。

ただ、単純に物語りの作り方や小説の書き方を勉強したいという人にはもっといい本が他にあると思います。

物語の構造を学びたい人には『映画を書くためにあなたがしなくてはならないこと シド・フィールドの脚本術』や『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』、小説の書き方を学びたい人には『小説講座 売れる作家の全技術』などがおすすめです。