「なんだ、猫か・・・」とは、ライムスター宇多丸氏のラジオ番組で三宅隆太監督が披露していたホラー映画のお約束に関する話です。
その話をもとにホラー映画によくある恐怖演出の意図や、利用される動物や小道具などの役割を考えてみます。
ホラーでよく見る演出の役割
ホラー映画にはさまざまなお約束が登場します。
イチャイチャしているカップルは怪物などに襲われて物語から退場する。「こんなところにいられるか!」といって、ひとりになりたがる人物は生き残れない。などなど。
このようなお約束のひとつが「なんだ、猫か・・・」です。
ホラー映画の猫の役割
まず、「なんだ、猫か・・・」がどんなものなのか説明するので、これからいうシーンを想像してみてください。
ホラー映画のワンシーン
夜中に不審な物音が聞こえて主人公の女性はベッドから起き上がります。彼女は懐中電灯の明かりをたよりにしながら物音がするほうへと近づいていきます。
物音はクローゼットの中からしているようです。彼女がおそるおそるクローゼットを開けた瞬間、中から何かが飛び出します。
「なんだ、猫か・・・」正体が猫だと気づいてホッとする彼女。しかし、彼女の背後には斧を持った男がっ!
「キャーッ!(悲鳴)」
これが緊張と緩和を利用した恐怖演出「なんだ、猫か」です。
主人公や観客をおどろかせるために、いったん緊張を解く役割を猫が担っています。
猫でワンクッションおくことによって、いきなり怪物などが登場するよりも効果的に恐怖を演出できるのです。怪物たちと同様に神出鬼没な存在の猫はまさに適役です。
このような恐怖演出に使われるのは猫だけではありません。他にもあるので紹介していきます。
ホラー映画の犬の役割
犬の役割は猫とは少しちがいます。犬の場合は人間では感じ取れないような危険を察知して主人公や観客たちの恐怖をあおります。
「おい、ジョン(犬)どうしたんだ! そんなに吠えて」「ねえ、ママ! ジョン(犬)のようすがおかしいの」といったように犬が何かにおびえて急に吠え出したり、飼い主のいうことをきかずに暴れ出したりするシーンを一度はホラー映画で見たことがあると思います。
このように目や耳では感じられない恐怖を、目や耳で感じられる恐怖に変換するのが犬の役割です。
幽霊などの見えない存在や、まだ全貌を隠しておきたいモンスターなどのおそろしさを犬が体を張って我々に伝えてくれます。
その他の小道具の役割
上の2つ(猫と犬)はラジオで三宅隆太監督が紹介していたものですが、その他の演出の意図や利用される小道具の役割も考えてみたので紹介します。
キッチン用品や調理器具の役割
ホラー映画でキッチン用品や調理器具が恐怖を引き立たせる演出に使われているのをよく見かけます。
たとえば、家の中に不審者が侵入してくるシーンなどです。
- お湯を沸かすためにヤカンを火に掛けているときにジェイソンが侵入してくる(『13日の金曜日 Part2』)
- コンロで作るタイプのポップコーンを調理しているときにマスクをかぶった殺人鬼が侵入してくる(『スクリーム』)
そして、殺人鬼がどこに潜んでいるのかわからないという緊張したシーンでお湯が沸いたり、ポップコーンが弾けたりして主人公や観客たちをおどろかせます。
他にも電子レンジだったり、キッチンタイマーだったり時間差で大きな音が出るものがこの手の演出に使われることが多いです。
よく見かけるこのような演出には、どういった役割があるのか?
おそらく「なんだ、猫か・・・」と同じように緊張と緩和を利用した演出です。大きな音を立てることによって、いったん不審者から主人公や観客たちの注意をそらす役割があります。
あと、もしかするとキッチンという場所も演出に深く関わっているかもしれません。身近な場所でありながら刃物や火などの危険なものが平然と存在しているというのは、日常に潜む殺人鬼やモンスターの存在とマッチしています。
赤いペンやケチャップの役割
赤いペンやケチャップなどの血を連想させる小道具がホラー映画にはよく登場します。
『ショーン・オブ・ザ・デッド』では、赤いペンが白いシャツに血のような染みをつくります。他にはホットドッグのケチャップが服につくパターンなどもあります。
このような血を連想させる小道具を使ったシーンの役割はなんなのか?
おそらく、これから起こる惨劇の予兆だと思われます。主人公がこの先どんな目に遭うのかそれとなく観客たちに伝える役割を果たしているといえるでしょう。
その証拠に、これらのシーンはだいたい上映開始から20分以内にあります。我々に「準備はできたか?」と問いかけ、その後につづく恐怖の世界へといざなってくれます。
まとめ
ホラー映画にかぎらず何度も見かけるシーンや演出には必ず作り手の意図が隠されています。そのような演出に気づいたときは意図や役割を考えてみるのもいいかもしれません。何度もマネされるということは、それだけ効果的な演出ということなので。
もしかすると「なんだ、猫か・・・」のようなおもしろいパターンが見つけ出せるかもしれません。