今回は『物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術』を紹介します。
この本は著者のクリストファー・ボグラーとデイビッド・マッケナが「本書はツールキット(道具箱)である」と語っているとおり、物語作りに役立つテクニックがつまった道具箱のような存在です。
本書は私たちが頭のなかで使うためのツールキットである。私たちの能力を高め、目標や効率を改善するのに不可欠な道具のコレクションであり、私たちの作業をずっと楽にしてきてくれたものだ。本書のあちこちでさまざまなツールが登場してくる。登場人物を明確なものにし、構造を細かく定め、テーマを決定し、意図を明らかにし、観客の楽しみを高めるためのツールだ。
『物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術』
それでは、『物語の法則』がどんな内容で、どんな人におすすめなのかを具体的に紹介していきます。
もくじ
『物語の法則』の内容紹介
この本の魅力はやはり、物語作りに役立つツール(道具)たちです。
物語の構造分析やキャラクター作り、それから完成した物語をチェックするためのリストなど、さまざまな用途のツールが登場します。
そんなツールの中から役立ちそうなものをいくつか取り上げて紹介していきます。
求めるものリスト
最初に紹介するのは「求めるものリスト」です。
どういったツールかというと、キャラクターの行動原理(何をもとめているのか)を考えるときに役立つツールです。
物語に登場するキャラクターたちは必ず何かを求めて行動しています。
愛だったり、お金だったり、名声だったり。もっと具体的にいうと、愛する人との結婚だったり、大学に行くためのお金だったり、世界チャンピオンの名声だったり。
キャラクターが何かを求めなければ物語は動き出しません。そういった物語作りに不可欠な「求めるもの」の一覧が2章に収録されています。
- 安定
- 権力
- 勝利
- 自由
- 変化
- 不老不死
- 生き残り
- 記憶の再生
- 友情
- アイデンティティーなど・・・
ただ、このリストはごらんのように抽象的なので、そのままでは少しつかいづらいかもしれません。というのも、このリストは自分で手をくわえて磨いていく必要のあるツールだからです。
このリストを参考にいろいろな作品を分析し、自分だけのオリジナルの「求めるものリスト」をつくっていくことを著者は推奨しています。
ヒーローズ・ジャーニー
ヒーローズ・ジャーニーとは、神話学者のジョーゼフ・キャンベルが発見した物語の型です。
簡単に説明すると、日常から非日常の世界へ旅に出た主人公が、イニシエーション(通過儀礼)を経て成長し、もとの世界に帰ってくるというパターンのお話です。
多くの物語に共通する型なので、物語の分析や改善点を見つけ出すのに役立ちます。
こんな型です
6章では「ヒーローズ・ジャーニー」を上の図のような12のステージに分けてくわしく解説しています。
さらに7章では主人公の内面に注目した著者オリジナルの「ヒーローズ・ジャーニー(内面的な旅路)」が収録されています。
キャラクターの原型
9章では、キャラクター作りに役立つキャラクターの原型(アーキタイプ)が登場します。物語上のどんな役割を担った人物で、どのような行動を起こすのかが記したものです。
たとえば、原型のひとつ「主人公(ヒーロー)」は以下のように紹介されています。
物語の中心となる人物。自分自身の人生の物語では、誰しもがヒーローである。通常の<主人公>は、学ぶべきことがたくさんあり、長い旅をするキャラクターとして描かれる。古典的な<主人公>の理想形は、自分より大きな何かのために、自分の望みを犠牲にできる人物である。
『物語の法則 強い物語とキャラを作れるハリウッド式創作術』
- 影(シャドウ):主人公の影、主人公が乗り越えるべき存在。
- 賢者:主人公を導く人。
- 使者:主人公を冒険へと誘うもの。
- 戸口の番人:主人公の旅路をじゃまする存在。
- 変身するもの:第一印象から印象がガラリと変わるもの。
- トリックスター:状況をひっくり返すイタズラ仕掛け人。
- 仲間:主人公の成長を助ける存在。
このような原型に性格などの特徴を肉付けしていけば、さまざまなタイプのキャラクターをつくることができます。
キャラクターの性格や特徴を考えていく方法について解説されている11章と合わせれば、キャラクター作りの強力なツールになります。
※ただし、そのためにはテオプラストスの『人さまざま』という本を自分で入手して読む必要があるので、残念ながらこの本だけでは実行しづらい内容になっています。
プロップの機能
13章に登場する「プロップの機能」を紹介します。
プロップの機能とは、民話の研究者ウラジミール・プロップがあらゆる民話やおとぎ話の共通点から導き出した物語のパターンです。
簡単に説明すると「プロップの機能」は以下のような31の項目で構成されています。
- 留守:主人公が何かを失う。
- 禁止:「どこどこに行ってはいけない」、「何々をしてはいけない」など、主人公が何かを禁止される。
- 違反:主人公が約束をやぶって、2で禁止されていたことをしてしまう。
- 探り出し:3のせいで敵対者が主人公の存在を知り、情報を集めようと動き出す。逆に主人公が誰かについて調べるパターンもある。
- 情報漏洩(ろうえい):敵対者に主人公の情報がバレる。
- 謀略:敵対者が主人公に罠を仕掛けようとする。
- 幇助(ほうじょ):主人公が敵の罠にかかってしまう。
- 加害:敵対者が主人公の身内を傷つけたり、主人公がいる環境を破壊する。
- 仲介、つなぎの段階:主人公を冒険に誘う使者が現れる。
- 対抗開始:主人公が自分の意志で行動を起こす。
- 出立:主人公が冒険の旅に出る。
- 贈与者の第一機能:主人公に知恵や力を与えてくれる存在(贈与者)と出会う。
- 主人公の反応:主人公は贈与者の出す試練に苦戦しながらもなんとか合格する。
- 呪具の贈与・獲得:試練を乗り越えた主人公は特別な力を手に入れる。
- 空間移動:主人公が求めているものがある場所(危険な場所)へ行く。
- 戦い:主人公と敵対者が戦う。
- しるしづけ:主人公の戦いを証明するものを手に入れる。(敵対者が身につけていたものや敵対者につけられたキズ)
- 勝利:主人公が勝利する
- (欠如・負傷の)解消:主人公は失っていたものを手に入れる。(ここで物語が終わる場合もある)
- 帰還:目的を果たした主人公はもといた場所へ帰ろうとする。
- 追跡:敵対者の生き残りや仲間がしつこく主人公に手を出そうとする。
- 救助:主人公が誰かを助ける。もしくは誰かに助けられる。
- 気づかれざる到着:帰還した主人公に誰も気づかない。冒険のなかで見違えるほど成長したため。
- 不当な要求:新たな敵対者が登場して主人公の手柄を横取りしようとする。
- 難題:主人公を本物かどうか試す課題が与えられる。(シンデレラのガラスの靴など)
- 解決:主人公が課題を無事にクリアする。
- 認知:主人公が何かを成し遂げてきた本物であることがみんなに認知される。
- 正体露見:新たな敵対者が偽物だということがみんなにバレる。
- 変身:主人公は新しい自分になる。
- 処罰:新たな敵対者が罰を受ける。
- 結婚:主人公が誰かと結ばれる。ハッピーエンド。
13章では「プロップの機能」と共通点の多いヒーローズ・ジャーニーを比較して、多くの物語がなぜこのような構造になっているのかが分析されています。
6章や7章の「ヒーローズ・ジャーニー」と合わせて読むと物語の構造に関する理解がさらに深まります。
チェックリスト
26章には、できあがったストーリーをチェックするためのリストが収録されています。
一部を紹介すると以下のようなチェック項目です。
チェックリスト
- キャラクターがどういう人物なのかを説明せずに行動で示せているか?(キャラクター)
- 誰が何をする物語なのか最初のほうで観客に示せているか?(構造)
- キャラクターのセリフが作者のセリフになってしまっていないか?(会話)
- 新鮮さのある作品か、もしくはヒネりのある作品になっているか?(コンセプト)
上のようなキャラクター、構造、会話、コンセプトなどに関するチェックポイントがそれぞれ10個程度あり、質問にこたえていけば改善点を見つけ出せるようになっています。
『物語の法則』の感想
『物語の法則』には、これまで紹介したような物語づくりに役立つツールがいくつも収録されています。ただ、紹介されているツールのなかには説明が中途半端におわっているものもあるので、自分で調べて補完する必要があります。
いいところもたくさんあるのですが、そういった「かゆいところ」に手がとどかない不親切な設計がやや残念でした。
ヒーローズ・ジャーニーとプロップの機能についてはページを割いてくわしく紹介されているので、関連書籍などを読まなくても理解できる内容だと思います。
- 物語の構造=物語の構造についてどれだけ有益な情報が得られるか。
- キャラクター作り=キャラクター作りに関する有益な情報がどれだけ得られるか。
- わかりやすさ=内容がわかりやすいかどうか。
- おすすめ度3.5=そこそこおすすめ。
どんな人におすすめなのか
こんな人におすすめ
- 物語を何作か完成させたことがある人
- 自分で調べて補完する作業が苦にならない人
- キャラクター作りに関して学びたい人
- ヒーローズ・ジャーニーについて知りたい人
まとめ
『物語の法則』は刺激になりそうな理論やツールがいろいろ詰まっているので、物語作りに行き詰まっているときや、何かヒントをもとめているときに役立ちます。
ただ、この本はどちらかというと初心者向けではなく、いくつか物語を完成させたことのある人が理解を深めるために読む本なので、どうやって物語を作ればいいのか分からない人は『SAVE THE CATの法則 本当に売れる脚本術』などの分かりやすい本から読むことをおすすめします。
SAVE THE CATの法則を紹介した記事